• HOME
  • 下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤とは

●下肢静脈瘤とは?:足の静脈がこぶのように膨らむ病気

下肢静脈瘤とは足の血管がふくれてこぶの様になる病気です。

良性の病気ですので、治療をしなくても健康を損なうことはありません。しかし、自然に治ることはありませんので、足にこぶの様な血管が目立つ見た目の問題、だるさやむくみなどの症状が日常的に起こり、患者さんを苦しめます。重症になると、湿疹ができたり、皮膚が破れたり(潰瘍)、出血をおこすことがあります。

●足の主な静脈

足の静脈には、「表在静脈(ひょうざいじょうみゃく)」、「深部静脈(しんぶじょうみゃく」および「穿通枝(せんつうし)」の3種類があります。
・表在静脈は、皮膚の下を流れる体表付近の静脈です。太ももからふくらはぎの内側にある「大伏在(だいふくざい)静脈」とふくらはぎのうしろ側にある「小伏在(しょうふくざい)静脈」があります。

・深部静脈は、筋肉の間や中にある足の深い部分の静脈です。表在静脈より太く、後述の筋ポンプ作用と深いかかわりがあります。
・穿通枝は、深部静脈と表在静脈をつなぐ静脈です。

●下肢静脈瘤の原因は?:逆流防止弁が壊れる

静脈瘤が下肢に起こりやすいのは、心臓から遠い位置にあることや、人が立って生活していることが関係しています。足の静脈の中の血液が心臓に戻るには、重力に逆らって上昇しなければなりません。歩くことで「ふくらはぎの筋肉」が収縮して静脈の中の血液を押し上げ、途中にある「静脈弁」が下に逆流しないように支えています。
筋肉のポンプ作用が落ちたり、弁の機能が悪くなったりすると、静脈内に血液がたまり、静脈の壁にかかる圧力(静脈圧)が高くなります。静脈の壁はそんなに強くはありませんので、伸びたり、曲がったり、膨れたりして静脈瘤となってしまいます。
下肢には皮膚のすぐ下にある表在静脈と、筋肉の間にある深部静脈がありますが、表在静脈は周りの支える組織が強くないので、下肢静脈瘤ができやすくなっています。

●下肢静脈瘤はどのような人がなりやすい?:原因

・女性の方(加齢とともに発生頻度は増加)
・立ち仕事に従事している方
・妊娠、出産経験のある方
・血縁に静脈瘤のある方

「下肢静脈瘤」になっている人は、軽い人も含めると1,000万人以上といわれています。 特にこの病気は女性に多く、患者様のうち8割が女性、2割が男性と言われ、成人女性の5人に1人が下肢静脈瘤になっているという計算になります。 下肢静脈瘤は、女性の足に起こりやすい病気なのです。

●下肢静脈瘤の種類

下肢静脈瘤は皮膚から静脈が大きく盛り上がる“伏在型(ふくざいがた)静脈瘤”と、それ以外の軽症静脈瘤に分けられます。伏在型静脈瘤は徐々に悪化して静脈のこぶが大きくなり、盛り上がります。だるさや疲れなどの症状が起こるのもこのタイプで、進行した場合は手術による治療が必要になります。
軽症静脈瘤の代表は、”くもの巣状静脈瘤”で、赤い血管がクモの巣のように皮膚にひろがって見えます。中高年の女性の方に多く、症状はほとんどありません。くもの巣状静脈瘤が進行して伏在型静脈瘤になることはありません。しかし、くもの巣状静脈瘤と伏在型静脈瘤が同時におこることがあるので、伏在型静脈瘤があるかどうかを超音波検査で調べます。

●下肢静脈瘤の症状

初めのうちは見た目が変わって見えるだけですが次第に脚がだるい、つる、むくむ、疲れやすいなどの症状がありますが 次第に皮膚がかゆいとか黒ずんでくるといった症状が現れます。
もっとひどくなると皮膚がただれて潰瘍を形成し治りにくい状態になります。
美容的な悩みの原因にもなります。

静脈瘤以外の症状

足の症状考えられる病気
足が冷える、冷たい閉塞性動脈硬化症、冷え性
階段の登り降りが辛い
正座ができない
変形性膝関節症
歩くとふくらぎが痛くなる脊柱管狭窄症
冬のなると両足が痒い老人性乾皮症
両足がむくむ加齢、生活習慣

足のつりと静脈瘤

足のつり(こむら返り)は足の筋肉のけいれんで、健康な人でも激しい運動の後に時々経験します。そのため、静脈瘤の症状だと思っていない方が多いのですが、静脈瘤では比較的よくおこる症状です。明け方ふとんの中でおこるのが特徴的で、静脈瘤が軽症から少し悪くなる頃によくおきます。しかし、ずっと続くことは少なく、次第におこらなくなります。

足のむくみと静脈瘤

静脈瘤で比較的多い症状で、痛みはなく、指で押すとひっこんだまま戻らない、靴下の跡がつく、靴が入らないなどが“足のむくみ”です。足のむくみは静脈瘤以外でも様々な病気や状態でおこります。しかし、よく言われるように、心臓や腎臓の病気であることは意外と少なく、ほとんどは長時間の立ち仕事や座り仕事、加齢などが原因です。

●下肢静脈瘤の検査

超音波検査(エコー検査)を行います。超音波検査は肝臓や胆嚢の検査と同じ検査で、ゼリーをつけて体の表面から静脈の状態を調べます。肝臓の検査と違うのは、立ったまま行うところです。静脈造影検査と違って体への負担がなく、痛みがないため繰り返し行うことができ、血液の流れが見えるので静脈弁の異常があるかどうかが正確にわかります。

●下肢静脈瘤の手術適応

静脈瘤の方は全員、治療が必要なのでしょうか?静脈瘤は良性の病気です。ほおっておいても血栓の心配はなく、全身への影響はありません。 下肢静脈瘤の治療が必要な場合は、
1)外見が気になる
2)症状があって、つらい
3)皮膚炎をおこしている
4)超音波(エコー)検査で逆流がある
場合にかぎります。
逆に言えば見た目が気にならず、症状や皮膚炎がなければ治療は必要ありません。いくら静脈がぼこぼこになっていても静脈瘤が破裂して出血したりすることはありません。弾性ストッキングを履いたり、足を高くして寝たりする努力も必要ありません。ただし、若い方(40歳未満)で、立ち仕事の方は、現在、症状がなくても、将来必ず悪くなりますので、治療が必要な場合があります。

●下肢静脈瘤の手術方法

下肢静脈瘤の治療には “保存的治療”、”硬化療法”、”手術”、”血管内治療”の4つがあります。それぞれの治療にはメリットと注意点がありますので、静脈瘤のタイプや患者さんの状態によって適切な治療を選択する必要があります。

◼️保存的治療は、生活習慣の改善や弾性ストッキングなどで症状を改善したり、進行を予防する治療です。
◼️硬化療法は静脈瘤に薬を注射して固めてしまう治療です。
◼️手術は静脈を切除するストリッピング手術が代表的な方法です。
◼️血管内治療は低侵襲治療で、高周波(ラジオ波)またはレーザーを使ったものがあり、日帰りで治療することができます。

●保存的治療:弾性ストッキング装着

弾性ストッキングは、足を締めつけて、ふくらはぎの筋ポンプ作用を助けることによって静脈還流をうながし、足に血液がたまるのを防ぎます。足を締めつけると逆に悪くなると心配される方もいらっしゃるようですが、弾性ストッキングは足首から段階的に圧力が弱くなっており、心臓にむかって血液が流れるように考えられて設計されています。市販品と医療用のものがありますが、基本的に構造は同じで、医療用の方が締めつけがきつく、医療機関でしか購入できません。長さによってハイソックス、ストッキング、パンストなどの種類があります。

◼️弾性ストッキング・コンダクターによる指導

弾性ストッキングは正しく着用すれば、下肢静脈瘤の治療にたいへん役に立ちます。しかし、履くのが難しかったり、かぶれたりなどのトラブルをおこすことがあり、長くはき続けることが難しいものでもあります。このような問題を解決するために日本静脈学会では「弾性ストッキング・コンダクター」という資格を設けています。弾性ストッキング・コンダクターは、弾性ストッキングのソムリエともいえる資格で、医師の指示のもとストッキングの種類・サイズの判断、着用時の指導、着用後の不満・問題点の相談を受けて適切な指導を行います。

装着による合併症

・発赤 (血液が滞留して皮膚が赤くなる)・かゆみ・痛み ・発疹・しびれ・むくみ・水泡形成

■下肢静脈瘤への弾性ストッキングの使用は保険適用外

弾性ストッキングは、癌の治療後のリンパ浮腫や入院患者さんの肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)予防には保険適用されています。しかし、下肢静脈瘤を治療する場合は、保険適用ではありません。

●静脈に薬を注射して固める硬化療法

硬化療法は、下肢の静脈瘤に薬(ポリドカノール(ポリドカスクレロール® )を注射して固めてしまう治療です。固めた血管が硬くなることから硬化療法と言われています。硬くなった静脈は、半年ぐらいで吸収されて消えてしまいます。外来で10分程度で行うことができます。

硬化療法は軽症の下肢静脈瘤には有用性の高い治療法ですが、進行した静脈瘤には治療効果が期待できない場合もあります。
また、最近は硬化剤を空気と混ぜて泡状にする「フォーム硬化療法」が行われるようになり、さらに治療できる下肢静脈瘤の範囲が広がっています。

メリット
・ 外来で治療ができる。
・ 穿刺で行うため傷跡がほとんど残らない。

デメリット
・ 硬化剤注入部に色素沈着することがある。
・ しこりや痛みが残ることがある(時間の経過とともに消失する)。
・ 硬化療法単独では、すぐ再発してしまう。

●血管をしばる「高位結紮術」、引き抜く「ストリッピング手術」

高位結紮術

下肢静脈瘤の手術には、血管をしばる「高位結紮術(こういけっさつじゅつ)」と、血管を引き抜く「ストリッピング手術」があります。

高位結紮術は足のつけ根で血管をしばって、血液の逆流を食い止める手術ですが、再発がとても多い事や方法新しい治療法の開発にともない現在では実施件数は少なくなっています。

ストリッピング手術

ストリッピング手術は、再発率が低く、100年以上前から行われている、一番確実な治療法です。 足のつけ根と膝の内側の2ヶ所を切って、静脈の中に細い針金(ワイヤー)を入れてワイヤーごと静脈を抜き去る方法です。全身麻酔や脊椎麻酔で行われるため入院が必要でしたが、最近は日帰りでできるようになっています。しかし、高周波などによる血管内治療に比べて体への負担が多く、手術後の「痛み」や「出血」などのリスクがあるとされています。

●血管を内側から焼いてふさぐ「血管内治療」

血管内治療は、ストリッピング手術のように静脈を引き抜いてしまうかわりに、静脈を焼いてふさいでしまう治療です。細い管(カテーテル)を病気になった静脈の中に入れて、内側から熱を加えて焼いてしまいます。焼いた静脈は焼肉のように固く縮んでしまい、治療後半年ぐらいで吸収されてなくなってしまいます。局所麻酔で細い管を差し込むだけなので、従来のストリッピング手術のように入院が必要なく、日帰り[※2]で治療ができる体に負担が少ない低侵襲な治療です。 血管内治療には高周波(ラジオ波)を使う高周波治療とレーザーを使うレーザー治療があります。現在では高周波(ラジオ波)およびレーザー治療ともに保険適用されています。

※2 医師の診断によります。

●傷口を小さく、痕が残りにくい「スタブ・アバルジョン法」

高周波(ラジオ波)治療やレーザー治療などの血管内治療は、細い管を静脈の中に入れるだけなので針穴だけで済み、皮膚を切らずに治療ができます。 効果的な下肢静脈瘤の治療には、患者さんの下肢静脈瘤の症状や進行状況に応じて様々な治療法を組み合わせることが必要です。 そのため、血管内治療でも同時に何ヵ所か皮膚を切って静脈瘤を切除することがあります。最近では、スタブ・アバルジョン法(Stab avulsion)といって、 特殊な器具を使って非常に小さい傷(1-3mm)だけで静脈瘤を切除する方法が多く選択されています。この方法だと傷が小さいため縫う必要がなく、傷痕が残りにくく痛みも少ないとされています。 高周波(ラジオ波)治療やレーザー治療とスタブ・アバルジョン法を組み合わせることによって、より効果的な下肢静脈瘤治療が期待できます。

●その他

運動・マッサージなどによる生活習慣の改善 下肢静脈瘤は、静脈弁が壊れて血液が重力に逆らって心臓にうまく戻らなくなる病気です。したがって、長い時間立っていると症状が強くなり、病気が進行しやすくなります。1ヶ所に長時間じっと立っているのは避け、できるだけ歩き回ったり、1時間に1回程度は休憩をとるようにしましょう。パソコンなどの作業で、椅子に長時間座ったままもよくありませんので、足首の運動や、足台で足を高くするようにしましょう。お風呂での足のマッサージや、夜就寝時に足を高くするのも効果的です。

●日帰り手術後の生活:いつから何ができるの

※手術の翌日が1日後です。 ※あくまでも目安です。手術後の経過によって日数は前後します。

●診察・治療費

診察内容3割負担の場合1割負担の場合
初診時
(初診料+超音波検査)
約2800円約900円
硬化療法約5000円約2000円
ストリッグ手術約3万3000円約1万1000円
血管内治療
(レーザー・高周波)
約4万5000円約1万1000円

標準的な治療を行った場合のおおよその自己負担額となります。
当院での診療は基本的にすべて保険診療です。
自由診療のレーザーは2014年5月に終了しました。

●民間の保険について

民間の医療保険あるいは生命保険にご加入されている方は、日帰りストリッピング手術あるいは血管内治療をうけたときに手術給付金が支給される場合がほとんどですが、加入されている保険によっては給付されない場合もありますので、詳しくは各保険会社にお尋ね下さい。
保険給付ご希望の方は、各保険会社の所定の診断書をご持参いただければ当院で記載いたします(有料)。
治療費が給付されるのは通常、手術のみで、硬化療法は給付の対象になりません。

●最後に:最適な治療法を、医師とじっくり話し合って決定してください。

下肢静脈瘤は進行性の疾患ですので、自然に治るということはありません。とは言え、進行は非常にゆっくりですし、悪性の病気でもありません。
ただし、下肢静脈瘤の状態や患者さんの年齢・生活習慣によっては早めに治療やケアを開始することが必要な場合もあります。医師は患者さんに診断結果を説明して、患者さん自身の希望や普段の生活への影響なども考慮し、いろいろな治療方法の中で最適な方法を患者さんと相談をしながら決めていくことになります。
より早い段階で受診することで治療方法の選択肢も多く、治療による精神的および経済的な負担も少なくなります。まずは早めに専門医から受診して、現在のご自分の状態を正確に把握して、健やかで快適な暮らしを送れるようにしましょう。